水害で破損した太陽光パネル
=2019年11月11日、長野市
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参院選の論戦が本格化する中で、原発・エネルギー政策が大きな争点として浮上している。
経済産業省は26日、猛暑に伴って東京電力管内の27日夕の電力需給が逼迫(ひっぱく)し、供給予備率が5%を下回る見通しとなったとして、節電を呼びかける「需給逼迫注意報」を初めて発令した。
こうした電力不足を打開するには、原発の再稼働などで電力供給を増強する必要がある。今回の選挙戦では自民党だけでなく、野党の日本維新の会や国民民主党も「安全性を確認した原発の再稼働を進める」との公約を掲げた。
暮らしと産業を支える電力の安定供給を確保するため、その具体的な手順も示すべきだ。
「原発の活用」実行せよ
21日の公開党首討論会で、厳しい電力需給への対応を問われた岸田文雄首相(自民党総裁)は、「今後しっかりと考えていかないとならない」と語り、企業や家庭に省エネを促す考えを示した。これではあまりに危機感が乏しいと言わざるを得ない。
政府は節電した家庭にポイントを付与したり、事業者の節電分を買い取ったりするなどの仕組みを設け、政府として補助する構えだ。世界的なエネルギー価格の高騰で家庭や企業の電気料金はこの1年で大きく値上がりしている。節電すれば、その分だけ料金負担を軽減できる。
ただ、こうした節電では直面する電力危機は乗り越えられず、電力不足の根本的な解決にもつながらない。現在の電力不足は原発再稼働の大幅な遅れに加え、電力自由化や脱炭素を背景に火力発電所の休廃止が進んだのが原因だ。原発活用や火力発電に対する安定投資を通じ、電力供給を着実に増やさなければ、厳しい需給逼迫を改善できないのは明白である。
しかし、各党の公約からは明確な処方箋が見えない。国内33基の原発のうち、安全審査に合格して再稼働に至ったのは10基にとどまり、足元で稼働しているのは4基にすぎない。自民が訴えるような「原発の最大限の活用」を果たしているとは到底言えない。
そうした原発の再稼働の遅れは、原子力規制委員会の安全審査の長期化が大きく影響している。原発は発電過程で温室効果ガスを排出しない脱炭素電源としてだけでなく、安定電源としても活用できる。岸田首相も「審査の効率化が必要」としており、今後の論戦で審査の効率化や迅速化に向けた取り組みを明示してほしい。
一方で、立憲民主党などは脱炭素を訴え、再生可能エネルギーの拡大を強調している。これではわが国の電力不足は一向に解消できず、電力の安定供給も実現できない。立民は節電に依存するような脆(ぜい)弱(じゃく)な電力供給体制を容認するつもりか。有権者は各党の政策を冷静に見極める必要がある。
立民などは「原発に依存しない社会を目指す」と脱原発も掲げている。原発や火力発電に代えて太陽光などの再生エネの拡大を唱えるが、今年3月に東日本で初めて電力需給逼迫警報が発令された際には、悪天候で太陽光発電は機能しなかった。そうした場合の電力をどう確保するかなどの具体的な対策も提示すべきだ。
冬の厳しい需給直視を
政府の電力需給見通しによると、来年1~2月の東京電力管内の供給予備率はマイナスとなり、夏以上に厳しい電力不足が見込まれる。冬場に電気が使えなくなれば、国民の生命や健康に影響が出かねない。現在の日本は、そうした厳しい電力危機を迎えているとの認識が不可欠だ。
ロシアのウクライナ侵略に伴い、世界ではエネルギー安全保障の取り組みが加速している。とくにわが国は海外からの資源輸入に依存している。こうした中で日本を含む先進7カ国(G7)は、ロシア産の石油と石炭の禁輸を決めた。今後は液化天然ガス(LNG)への波及も必至だ。非常時に備えて調達先のさらなる多様化も急ぐ必要がある。
参院選は、地球温暖化防止に向けた脱炭素に偏重したエネルギー政策を見直す好機である。エネルギー安全保障やコストを含めた多角的な視点で、バランスの取れた電源構成を確保することが何より欠かせない。
そのためには今の電力危機に向き合い、有権者受けを狙う理想論ばかりを唱える政党の公約を厳しく精査しなければならない。
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2022年6月27日付産経新聞【主張】を転載しています